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秀太郎歌舞伎話E 〜 平成若衆歌舞伎松山見参!
今年は歌舞伎発祥四百年ということで、様々な形で歌舞伎も注目を集めておりますが、ちょうどそれと同じく松山城築城四百年にあたるそうです。そこで、松山市から是非それを記念したものとして歌舞伎を上演したいというお話があり、今回三月二十九日と三十日の二日間三回公演が決まりました。
さてこの記念公演にどの演目をだそうかということになった際、歌舞伎には狐のお話は(例えば義経千本桜や葛の葉といったものに代表されるように)たくさんありますが、狸といいますとコレっというものが思い浮かびません。松山には狸にまつわる民話がたくさんありまして、ことに伊予狸というのはとても有名なお狸様で、それをうまく歌舞伎にすることはできないか・・・ということになったのです。
松山市からは「狸が登場する新作で、それでいて古典的な歌舞伎、そしてそれを若衆歌舞伎のメンバーで上演してほしい」というご依頼で、本当にありがたいお話でしたが難しいご提案でもありました。調べてみますと、講談・伝説・民話といったものに出てきます松山城にまつわる狸はいたずらをして人を困らせたり敵役として登場したりして、どちらかといえば悪者。これではせっかく新作の歌舞伎として狸を盛り上げるというのは逆効果になるような気がしまして、脚本家の今井豊茂氏と相談して狸をよい者として新作古典歌舞伎を作ろうかということになったわけです。
新作古典歌舞伎ですからお話はまったく新しいものですが、衣裳や見得、立ち回り、ラブシーンのようなもの、殺しの場面といった歌舞伎の要素をふんだんに使って、音楽的にもセリフにしても古典的な歌舞伎の醍醐味を楽しめるようにと何度も打ち合わせを重ねました。今回もヒーローは愛之助がつとめますが、若衆歌舞伎ですので他の出演する若衆の役者たちにもそれぞれ見せ場があり活躍するようにいたしました。そうかといって、役者だけが満足していてはいけませんので、いろいろと考えまして、「ああ、これが歌舞伎なんだ」というようにお客様にご満足いただけるような芝居になったと自負しております。
今回は公演の日程が四月の公演のお稽古と重なっていまして、この公演に出演するにはそのお稽古を十分にすることができなくなってします。四月にあちこちの劇場が開きますから役者をたくさん揃えるという訳にはいきませんし、もちろん、松山という場所での公演は、役者だけでなく鳴り物や、衣裳、床山、美術といった裏方スタッフも含めますとそれでも七十名もの人が動くことになり、経費や旅費を考えますと大変です。出演している役者の数は少ないですが、見えないところで動いている人の力も舞台を支える大切なものですから、どうしてもそれだけの人を結集しなくてはなりません。大道具はないものを大阪から作ってもっていきますし、無人歌舞伎にみえないよう裏方も含め全員がフル活動です。
若衆歌舞伎の一番の良いところは全員一丸となっているところではないでしょうか。お互いに刺激しあって、新しい挑戦をそれぞれがやっていける場でもあります。例えば、今回はりき弥(片岡りき弥丈)を若衆にし、千壽郎(片岡千壽郎丈)を相手役の女としたのですが、りき弥の演じる若衆を色気もあり残酷さをももった役柄としてみました。これまでの二人を考えますと、おそらく逆のほうがしっくりくるかもしれません。それでも、よい意味で観る方を裏切ってみたいというのもありますし、二人にとりましてもよい挑戦になるはずです。
それと、やはり上方の役者がやるのですから、上方の香りというのもうまく伝えたいです。具体的にはセリフのイントネーションというところでしょうか。今の若い人は関西で育っていても本来の上方ことばを話していないことも多いのですが、それでも関西で育ったという土壌のせいか、上方ことばを教えるとすぐに直せます。微妙なところで文字にするのはとても難しいのですが、アクセントだけでなく音が違うのです。上方ことばはどちらかといえば柔らかいですが、その分わかりにくく「てにをは」がはっきりしません。明確にセリフをいうのは大切ですが、それにこだわりすぎるのと上方の匂いが消えてしまいますから、その辺りは「いい加減」というのが必要となってきます。よい意味での「いい加減さ」と「臭み」というのが芝居には必要で、うぬぼれではないですが、それは僕や吉弥(上村吉弥丈)のようなベテランがはいることで、若い人の芝居に「いい加減」と「臭み」を加えて芝居を締めるということになるわけです。若手は大人と会うことにより、刺激され勉強します。一方でベテランも一所懸命さから刺激されます。一丸となってはいても馴れ合いじゃない芝居というものを創り上げる空気が若衆歌舞伎にはあります。今回は吉弥がはいることで随分と雰囲気も変わりますし、彼自身もとても一所懸命やっていますから若手にもいい刺激となっているようです。僕も若手と一緒におりますと、これまでは疑問とも感じていなかったものを質問され、そこからまた新たに感じるものがあったりしますから、互いに刺激になっているように思います。
今回は三回公演ですが、一回一回がどんどん変わっていくと思います。一回目は緊張してはちきれそうなエネルギーが充満していると思いますし、そこからダメだしがでて工夫して、三回目に自分で何かつかんだものがふぅっと花開く・・・そんな芝居ができるのも三回目になる頃です。それと、お客様の反応をみながらどんどん変えていくことも考えています。通常の歌舞伎公演とは違い公演期間は短いし、若い人たちがやるのですからエネルギッシュな舞台でしょうが、それがいつかは大歌舞伎へつながらなければなりません。地方ばかりで公演している若衆歌舞伎といわれてはしょうがないですから、いつかは歌舞伎座や松竹座で公演できるようにしていきたいですね。
最近つくづく思いますのが芝居にはテンポと緩急が大切だということです。セリフが長くならず、何気なく楽しめる歌舞伎というものを作りたいと感じています。初めてご覧になる方にも楽しんでいただき、また、歌舞伎好きな方でも歌舞伎らしいと喜んでもらえる、そんなお芝居を作りたいです。今回初めて歌舞伎をご覧になって楽しいと思ったお客様は、きっと従来の古典歌舞伎についていけると思うんです。そういった意味で僕がやっていく歌舞伎は、役者と観客が一緒に育っていく「生きた古典」でありたいです。
会場となります愛媛文化会館は三千人もはいり、舞台も間口が十間ありますから、大道具もそれにあわせて立派なものとなります。当初は三千人ものお客様が、それも三回の公演だなんてお客様がはいるのか不安でしたが、松山以外からも来て下さる方が多いらしく、お蔭様で席がいっぱいとなっているようです。これは、お芝居を観て、温泉にはいって、あるいはゴルフをされて・・・と、松山・道後温泉を楽しむということとの相乗効果もあるかもしれませんね。ちょうど松山の狸と札幌の狸の結婚式(*注)も二十九日に行われる予定で、僕は仲人をさせていただくことになっているんです。そんなイベントを盛り込んだりして、松山の良さとお芝居の楽しみを知っていただくよい機会としていただければと思います。
* 注:松山と札幌それぞれの街には狸にまつわるお話があり、町おこしの一環としてそれぞれの狸が友好の記念に結婚するという催しが三月二十九日に開催されます。(2003年3月)
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